久歯会ニューズレターの発刊によせて
今回は突然ですが、『キリンの首が長いことの不思議?!』について、書かせて頂きます。
キリンの首が長いことは、現在にいたるまで結論が出ていない進化論における難問です。キリンの最古の化石は、1000万年前ほどのパレオトラグスと呼ばれる大型のシカほどの動物で、オカピ(鯨偶蹄目キリン科に属する哺乳動物)に似ており、首は長くはなかった。この動物から進化したとされるが、化石上では徐々に首の長さが長くなるのではなく、突然首の長い化石が見つかるのである。同じキリン科でも密林でひっそり暮らすオカピは首の長さはあまり長くなく、草原に出たキリンは首の長さが長くなったらしい。
さて、皆さんもご存知のように哺乳類の頸椎の数は、一部の例外を除き7個です。わずかな例外として、ホフマンナマケモノは6個、ミツユビナマケモノは9個、マナティーは6個あります。鯨の多くは、首の骨が1個になっていますが、胎児の時は7個ある骨が、成長するにつれて融合して1個になってしまうので、基本的に7個として扱っていいでしょう。首が長いキリンも、首があるのかどうかもわからないモグラも、みんな頸椎の数は7個です。
4000種を超える哺乳類のうち、たった3種だけが例外というのだから、「哺乳類の首の骨は7個」というのは、“かなり厳密な決まりごと”らしい。
こんな厳密な決まりに反し、両生類の首の骨は1個しかないらしい。しかし、いま生きている爬虫類の首の骨は、すべて8個であるらしい。亀もトカゲもワニもヘビも、みんな8個。ところが、化石爬虫類となると、恐竜のブロントサウルスの仲間には19などと多くの首の骨を持ち、さらに首長竜の仲間のエラスモサウルスに至っては、76個もある。さらに鳥類は頚椎が11~25個くらいばらつきがあるが、骨の数が多いために首を180度くらい回すことができます。
ここからが本題ですが、ある生物が首を長くする方法としては、2つのことが考えられます。一つは、恐竜のように首の骨の数を増やす方法と、もう一つは、骨の数は同じでも一つ一つの骨の長さを伸ばす方法です。キリンは首を長くするために、なぜ後者を選択したのか? という疑問が湧いてきます。
つまり、キリンは哺乳類であるために、『哺乳類の首の骨は7個』という『かなり厳密な決まりごと』の枠を超えられず、骨の数を増やせなかったので骨を長くせざるを得なかった、と解釈するのが無理がないと思います。
これは『遺伝的拘束』の、ほんの一例です。
私たち歯科医師は、患者さんという遺伝的拘束を受けている生命体を対象に、一般歯科治療、インプラント、歯科矯正などの医療行為を行っています。歯科医療の質を向上させより良い治療結果を得るためには、私たちは『新しい生物学』を学び直す時期に来ているようです。
矯正治療の大半は、元の状態に修復することや復元することを目的としたものではないことから、新たに治療目標が設定され、現在の状態をその治療目標へと変化させるための道筋として治療方法が決定されます。したがって,矯正治療における診断の有り様は、一般的な医療のそれとは自ずと異なってくるため、『新しい生物学』の知識抜きでは、良い治療結果を得ることはできません。
さらに私たちは、日本国・日本経済・厚生労働省・・・・・という社会的拘束も受けながら歯科医業や経済活動を行っています。
経済的、社会的に非常に厳しい環境に置かれている私たち歯科医師は、生物学も含む歯科医学ばかりでなく、多方面のことも勉強し直さなければ生き残ることができない多難な時を迎えているようです。
最後に、キリンの首が何故長いか? に対する回答は、キリンや馬のように前足が長い動物は、水を飲んだり食物を食べるのに首が長い方が便利であったためだという説があり、私はこれを信じています。(どれだけの人が信じてくれるのかは、不明ですが、・・・・・。)